機動戦士ガンダムUC 二次創作 機動戦士ガンダムUC理想への旅 第19話 激戦の後
ラプラスの奥には、既にダグザ専用のフェードラ運び込まれていた。
「これで、存分に戦えるだろう。戦うのは本意じゃないだろうが、フル・フロンタルが出てきた以上、生半可な戦い方じゃ、間違いなく嬲り殺しにされる。そうなれば、ネェル・アーガマは、君の友達たちはどうなる?あのアムロ・レイとカミーユ・ビダンが束になっても、勝てなかった敵だ。今は、月のフォン・ブラウン工場で、新型のガンダムが開発中とのことだが、それでも強敵なのは変わりない。」
「解っていますよ。そんな事…。割り切れなくても、戦うしかない事は…。」
つい最近まで、普通の少年として暮らしていたバナージに、MSに乗って人を殺せという事が、どれほど受け入れがたい事かは、ダグザも理解していた。
だが、第2、第3戦隊双方に、クローネとまともにやりあえるMSはない。
迷いを振り切って、戦ってもらうしかない。
情けない事この上ないが、それが現在の状況だった。
「バナージ。俺は、さっきNT-Dが発動しかけるのを見た。リカルド・マーセナスの演説を聞いて何かを感じたお前の心が、それを起こした。リミッターを解除して、圧倒的な戦闘力を発揮するプログラム以外の何かが、この機体には組み込まれている。それを制御するのは、おそらく、生身の心だ。」
「ダグザさん…。」
「乗り手の心を試しながら、箱へと導く道標。それこそが、組み込まれたプログラム、ラプラスプログラムの正体なのかもしれん。お前の父、カーディアス・ビストが何を考え、それを機体に組み込んだかは解らん。次の座標がどこかは解らんが、とんでもない場所になるかもしれん。相当に茶目っ気があるのか、とんだ食わせ者か。このラプラスを最初の座標に指定したのは、ひょっとしたら、箱までの旅路を歩む資格があるかを、判定する為かもしれん。感じたお前は、合格という訳だな。」
ハッチを開けると、フェードラに乗る前にダグザはバナージを真正面から見る。
「バナージ。これからどんなことになろうとも、お前はお前の考えを貫き通せ。俺やミタス艦長たちだけじゃなく、たとえ世界中を敵に回そうとも、お前にはお前にしか果たせない役目があるはずだ。」
「役目…、ですか…?ユニコーンに乗る以外に…。」
ポイントに沿って旅をし、最終地点に向かい箱の正体を知る。
おおまかにいえば、それが自分の役目だと思っていたバナージはその他の役目と言われて困惑した。
「ここが知っている。」
ダグザの指が、バナージの心臓を指さしていた。
「自分で自分を決められる、たった一つの部品だ。無くすなよ。」
そう言ったダグザの表情は、小さく笑っておりどこか温かさがあった。
外に出たのを確認して、ユニコーンのハッチを閉じる。
『俺の…、果たすべき、役目…。』
フェードラに戻る前に、ダグザはあらかじめコックピットに用意させていた、高性能爆薬を使用した即席爆弾を各所に設置していた。
『命令でも、意地でもない…。俺は、俺の心に従っている…。あいつが原因か…。』
最後に、遠隔操作式の「ファイアストーン」AMM(対MSミサイル:Anti Mobile suit Missile)を設置する。
「歯車にも、生まれるんだな。望みが…。」
マンハンター、人狩り部隊と悪口雑言を叩かれながら、ダグザは今まで任務を冷静に忠実に果たしてきた。
それを望んだからでもない。
軍人の道を志し、その道を歩み任官。
私情を捨てて、命令に忠実だった番犬。
今、思えば、それがダグザの人生だったのかもしれない。
そんな自分に、望みが生まれた。
戸惑いながらも、どこか嬉しさを覚えて、ダグザはフェードラに戻った。
「こんな所に来て、籠城でもするつもりか?」
一瞬、そう考えて、フロンタルは警戒しつつラプラスの中へと入っていく。
『よし…。』
「バルカンだ!威嚇で構わん。撃て。」
バナージに通信を入れた後、ダグザもフェードラのバルカンを撃つ。
連邦のMSに通常搭載されている57mmバルカン砲は、さほど火力が高くなく、文字通り威嚇程度にしかならない。
が、ユニコーンには、より大火力の76mmバルカンが搭載されている。
地上のジム系MSに搭載されている、90mmマシンガンを凌ぐ火力を与えられており、フロンタル用に優れた防御力を与えられたクローネでも、シールドで防ぐしかなかった。
そうして進んでいくのを確認すると、不可視レーザー式の起爆装置を操作して、各所にっ搭載した爆弾が爆発していく。
「小細工を…!」
フロンタルは決して短気な男ではないが、嫌がらせの様に爆破されていく爆弾に、少々苛立っていた。
そこに、頭部を狙ってファイアストーンが襲い掛かる。
歩兵用である為、一発でMSを撃破することはできないが、関節部や頭部のセンサーを狙えば、想像以上にダメージを与えることができる。
事実、着弾時のダメージがモノアイに残る。
「次から次へと…!そこか!」
フロンタルが、フェードラに向けて高出力の専用ビームライフルを撃つ。
「危ない!」
ユニコーンが前に出て、シールドに搭載されたIフィールドが展開されて、ライフルを防ぐ。
「Iフィールドか…!」
着弾する瞬間に展開するもので、常時展開という訳ではないが、使いようによっては頼もしい防御用装備となる。
「バナージ。」
「ダグザさんは後方から援護を。ジェガン用のシールドじゃ、こいつのライフルは防げません。こいつは…。」
『俺の役目。俺の心が、知っている事…。』
NT-Dが発動して、装甲が展開していく。
『一人でも、死ぬ人を減らす事だ…!』
ビームライフルの高出力モード。
リゼルに乗るパイロットからは、ギロチンモードと呼ばれるモードでクローネを狙い、シールドに装備された連装ビームガトリングガンで濃密な弾幕を張る。
「厄介な…!」
フロンタルは、一旦、離脱する。
「ガンダムになった。ここからでも…!」
ランゲブルーノ砲改を撃ちまくりつつ、スラスターを全開にする。
「この距離なら…。」
ランゲブルーノ砲改をパージして、機体を軽量化。
ビームガトリングガンを撃ちつつ、ビームソードで斬りかかろうとするが、ユニコーンの姿が消えたと思えば、腕部のビームトンファーを展開して、四肢を切断して無力化。
クローネとの、接近戦に入る。
「成程。速いな。」
NT-Dの驚異的な機動性を可能な限り駆使して、バナージはフロンタルと戦う。
クローネとNT-D発動時のユニコーンの性能差は、歴然としている。
が、その差を自らの優れた操縦技術でカバーして、守勢に回りながらもフロンタルは持ちこたえる。
バナージは、戦法を一撃離脱に変更。
ビームマグナムに搭載している、ユニコーンの追加武装であるアームドアームの一つ、203mmの高初速高性能滑腔砲であるアームドアームHS(High performance Smoothbore)を発射して、回避した瞬間に接近して近接格闘戦に持ち込む。
それを繰り返す。
相手のペースにのまれないように、フロンタルは一旦、距離をとる。
その時、ビームガトリングで弾幕を張って、回避軌道を狭めて、HSを撃った次にビームマグナムを撃つ。
「ちぃっ!」
何とか回避するが、左脚部に少なからぬダメージを受ける。
フロンタルとしては、ファンネルを使用して仕切り直しと行きたいところだが、ユニコーンの性能がそれを不可能にしている。
親衛隊は、アンジェロのグフ・マールスが大破。
その他のザクⅣも3機撃墜、1機が右の腕部と脚部を失い中破している。
『NT-Dは発動した。サイコモニターで、次のポイントは把握できる。これ以上は、益はないな…。』
大破したグフ・マールスと中破したザクⅣを連れて、フロンタルは宙域を離脱する。
『さて、次はどこかな…?』
「敵部隊。後退していきます。」
フロンタルらが後退していったのとほぼ同時に、連合部隊に攻撃を仕掛けてきた残党達も撤退していった。
「陽動とはいえ、手こずりましたね。」
「ああ。」
ゼクドーガは、もう主力量産MSではないのだろう。
だからこそ、部隊を引き付ける事に適した武装に改装していた。
オットーとレイアムは、そう読んでいた。
「損傷が軽い機体から、可能な限り早く補給と修理を済ませろ。」
直衛であり、精鋭部隊でもあるサイレン隊は追加装甲を装備していたことから、機体にはダメージがほとんどない。
全機、既に補給を終えて、周辺を警戒している。
エルフやリゼルたちが戻ると、Rタイプが哨戒行動に入る。
しばらくは、攻めてくることはないだろうが、それでも念には念を入れる必要がある。
通常のブリッジに戻りはしたが、オットーは休みを取らずに警戒の指揮を執っていた。
「バナージ。大丈夫か?」
ダグザが通信を入れてくる。
「何とか…。」
今までにない程、苛烈な戦闘になったことで、バナージの肉体的疲労はかなりの物になっていた。
「少し、休んでいろ。ユニコーンはこちらで運ぶ。コンロイ、手伝ってくれ。」
「了解。」
ネェル・アーガマに帰還しようとすると、ガエルが傍らで護衛に着く。
ザクⅣは4機。
ユニコーンを守る機体は、フェードラ2機、シルヴァ・クロス1機。
数の差を埋めるのに、レーザー誘導プロトフィンファンネルや誘導アームが活躍した。
ニュータイプ用のファンネルには性能面で劣るが、有線でない点は有利に働いてオールレンジ攻撃が可能となる。
『パイロットの負担を一切無視して、機体の性能を引き上げる事のみ考えたHADESの落とし子に、アナハイムのノウハウが結実したレーザー誘導インコムか…。』
フェードラは、エコーズの中でも精鋭と認められた僅かな部隊に与えられる、高性能機である。
事実、ザクⅣに一度も不覚をとってはいない。
が、ラプラスの箱をめぐって、袖付きや残党達との戦いが激化することを考えると、プラスアルファの強力な兵装が欲しくなる。
『上に掛け合ってみるか。何とか、なるかもしれん。』
「バナージ。大丈夫?」
医務室で少し眠っていたバナージは、ミコットの腕の中で目を覚ました。
「ハサン先生の話だと、ブドウ糖の点滴をして、あとは休んでいれば大丈夫だって。」
「あ。うん。…!て!なんて格好だよ。」
バナージが見たミコットは、白のスポーツブラとスポーティーな白のショーツ。
下着姿だった。
「お願い。しばらく、こうさせて…。艦で世話になっている分は、雑用で少しは借りを返しているけど、バナージに対しては何も…。」
強く抱きしめるミコットは、僅かに震えていた。
羞恥ではない。
申し訳なさからだった。
バナージが戦うのは、自分たちの為だとすぐに分かった。
NT-Dを発動させたときのバナージの疲労は、凄まじく、医務室の常連になっていた。
そんなバナージを見て、何もできない自分が悔しかった。
必死に考えて、ミコットは眠っているバナージを抱きしめていることにした。
「じゃあ、その…。お言葉に甘えて、もう少し…。」
「うん…。」
目を覚ました物のまだ疲れが残っていたバナージは、目を瞑りもう少しの間、夢の住人でいることを選んだ。
「フェードラの改装ですか?」
ダグザは、艦長室でオットーから今後の任務について聞かされていた。
「ああ。今後、袖付きとの戦いは、より激化するだろう。それと、次のポイントの事も考慮しての改装が必要だと、アナハイムが結論を出した。既に、インダストリアル7から物資を積み込んだ、フィリップ・ワッツ級工作艦ウィリアム・ヘンリー・ホワイトが出港している。ミスターチャンのシルヴァ・クロスも同様に改装を行う。それにマーセナス少尉を加えて、3人でバナージ君と共に次のポイントに向かってもらう。あれで、マーセナス少尉は白兵戦でも中々の物だしな。」
タブレットには、改装後のシルヴァ・クロスと改装後の専用フェードラ、リディの士官学校卒業時の考課表が表示されていた。
エコーズの隊員には及ばないが、平均水準を超えており、そこらのチンピラや一般的なジオン残党相手なら問題はない。
リディは、アナハイムの倉庫に眠っていたZプラス系の試作機「クラウドスカッツ」に準サイコミュ系を強化する改修を施して、与えられることとなった。
「改装後。ビスト財団から派遣された特装艦を母艦として、向かってもらう。決して楽な任務ではないが、頼んだぞ。」
「はっ!」
その日、バナージは自室で着替えていた。
普通の服に見えるが、防刃素材でできており、中身には防弾用の超軽量セラミックス素材が入っている。
が、重さは普通の服とさほど変わらない。
軍の特殊任務で使用されている、装備である。
高速輸送船で、運ばれてきた様々な物資の中の一つである。
「バナージ…。」
「ごめん。起こしちゃったかな?」
バナージの視線の先には一糸まとわぬ姿で、タオルケットで胸元を隠したミコットがいた。
「ううん。着替えている時に、私も起きたから。あの…。」
「うん?」
「気を付けてね。ごめんね。我儘言って。」
ミコットの傍に行くと、バナージは頬にキスをする。
「付き合っているわけでもないのに受け入れた俺だって、褒められたもんじゃないよ。気にしないで…。」
据え膳食わぬは男の恥。
バナージは、その言葉の支持者ではないが、昨夜のミコットを受け入れないという選択肢を選ぶことが、何故かできなかった。
これから、どんな人生を歩み、2人の関係はどうなるか解らない。
それでも、バナージは受け入れた。
「じゃあ。行ってくる。ミコット達の事は、艦長達によくお願いしているから、心配しないで。戻ってきたら、また一緒に勉強しよう。」
そう言って、バナージは艦載シャトルに向かった。
「よっ。意外に隅に置けないな。」
シャトルに先についていたリディは、意味ありげな笑みを浮かべながら、バナージに話しかけてくる。
「何です。いきなり。」
「とぼけるなよ。昨日の夜。ミコットちゃんが、バナージの部屋に入って、しばらく帰ってこなかっただろう?他の連中に聞いても、ミコットちゃんを見たのはいなかったぞ。」
逃走路を潰されると、バナージは赤くなり目が泳ぎ始めた。
「ま。男なら、そういう時もあるさ。戻ってこないかもって思って。なら。って、考えたんだろうな。俺も、初陣の時に、仲良くなった女性兵がいてさ。そん時にな。」
そう言ってウィンクすると、リディは席に座った。
しばらくすると、ガエルがバナージの隣に座り、近くにダグザが座る。
そして、シャトルが発進した。
まずは、地球周辺詭道で待機している、特装艦シリウスとランデブー。
そして、次のポイントがある蒼き惑星。
地球へと行くことになる。
シャトルに乗っている人間は誰も気づいていないが、艦に積み込まれる荷物の中に紛れ込んでいる者がいた。
後書き
かなり久しぶりの投稿です。
改修したモノケロス相手なら、優勢に戦いを進められたフロンタルのクローネですが、NT-Dが発動して、アームドアームで火力が向上したユニコーン相手ではそうもいきませんでした。
付き従った親衛隊もかなりの損害。
まして、アンジェロは新型のグフ・マールスが戦闘不能に。
それでも、NT-Dを発動させたことで、零点ではないと判断。
次の手を打つようです。
その中で、力不足を感じているのが、意外にもダグザ中佐。
全身をサイコフレームで構成した超常的なインターフェースで、発動時には圧倒的な性能を発揮するユニコーン。
HADESの系譜に繋がるシステムであるTHANATOSを搭載する、ガエルのシルヴァ・クロス。
それに比べて、自身のフェードラに力不足差を感じるという、どこから見ても模範的な軍人であるダグザに相応しくない一面が垣間見えます。
そして、バナージらは地球に、次の目的地が判明したことで、改修用パーツを積んだ工作艦と専用の特務艦を、マーサが手配。
ま、ろくなこと考えてないでしょうけど。
この婆さん、誰か暗殺しないのかな?

HGUC 機動戦士ガンダムUC ユニコーンガンダム デストロイモード 1/144スケール 色分け済みプラモデル

RG 機動戦士ガンダムUC ユニコーンガンダム 1/144スケール 色分け済みプラモデル

HGUC 1/144 MSN-06S シナンジュ (機動戦士ガンダムUC)

HGUC 機動戦士ガンダムUC MSV ARX-014 シルヴァ・バレト 1/144スケール 色分け済みプラモデル
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「これで、存分に戦えるだろう。戦うのは本意じゃないだろうが、フル・フロンタルが出てきた以上、生半可な戦い方じゃ、間違いなく嬲り殺しにされる。そうなれば、ネェル・アーガマは、君の友達たちはどうなる?あのアムロ・レイとカミーユ・ビダンが束になっても、勝てなかった敵だ。今は、月のフォン・ブラウン工場で、新型のガンダムが開発中とのことだが、それでも強敵なのは変わりない。」
「解っていますよ。そんな事…。割り切れなくても、戦うしかない事は…。」
つい最近まで、普通の少年として暮らしていたバナージに、MSに乗って人を殺せという事が、どれほど受け入れがたい事かは、ダグザも理解していた。
だが、第2、第3戦隊双方に、クローネとまともにやりあえるMSはない。
迷いを振り切って、戦ってもらうしかない。
情けない事この上ないが、それが現在の状況だった。
「バナージ。俺は、さっきNT-Dが発動しかけるのを見た。リカルド・マーセナスの演説を聞いて何かを感じたお前の心が、それを起こした。リミッターを解除して、圧倒的な戦闘力を発揮するプログラム以外の何かが、この機体には組み込まれている。それを制御するのは、おそらく、生身の心だ。」
「ダグザさん…。」
「乗り手の心を試しながら、箱へと導く道標。それこそが、組み込まれたプログラム、ラプラスプログラムの正体なのかもしれん。お前の父、カーディアス・ビストが何を考え、それを機体に組み込んだかは解らん。次の座標がどこかは解らんが、とんでもない場所になるかもしれん。相当に茶目っ気があるのか、とんだ食わせ者か。このラプラスを最初の座標に指定したのは、ひょっとしたら、箱までの旅路を歩む資格があるかを、判定する為かもしれん。感じたお前は、合格という訳だな。」
ハッチを開けると、フェードラに乗る前にダグザはバナージを真正面から見る。
「バナージ。これからどんなことになろうとも、お前はお前の考えを貫き通せ。俺やミタス艦長たちだけじゃなく、たとえ世界中を敵に回そうとも、お前にはお前にしか果たせない役目があるはずだ。」
「役目…、ですか…?ユニコーンに乗る以外に…。」
ポイントに沿って旅をし、最終地点に向かい箱の正体を知る。
おおまかにいえば、それが自分の役目だと思っていたバナージはその他の役目と言われて困惑した。
「ここが知っている。」
ダグザの指が、バナージの心臓を指さしていた。
「自分で自分を決められる、たった一つの部品だ。無くすなよ。」
そう言ったダグザの表情は、小さく笑っておりどこか温かさがあった。
外に出たのを確認して、ユニコーンのハッチを閉じる。
『俺の…、果たすべき、役目…。』
フェードラに戻る前に、ダグザはあらかじめコックピットに用意させていた、高性能爆薬を使用した即席爆弾を各所に設置していた。
『命令でも、意地でもない…。俺は、俺の心に従っている…。あいつが原因か…。』
最後に、遠隔操作式の「ファイアストーン」AMM(対MSミサイル:Anti Mobile suit Missile)を設置する。
「歯車にも、生まれるんだな。望みが…。」
マンハンター、人狩り部隊と悪口雑言を叩かれながら、ダグザは今まで任務を冷静に忠実に果たしてきた。
それを望んだからでもない。
軍人の道を志し、その道を歩み任官。
私情を捨てて、命令に忠実だった番犬。
今、思えば、それがダグザの人生だったのかもしれない。
そんな自分に、望みが生まれた。
戸惑いながらも、どこか嬉しさを覚えて、ダグザはフェードラに戻った。
「こんな所に来て、籠城でもするつもりか?」
一瞬、そう考えて、フロンタルは警戒しつつラプラスの中へと入っていく。
『よし…。』
「バルカンだ!威嚇で構わん。撃て。」
バナージに通信を入れた後、ダグザもフェードラのバルカンを撃つ。
連邦のMSに通常搭載されている57mmバルカン砲は、さほど火力が高くなく、文字通り威嚇程度にしかならない。
が、ユニコーンには、より大火力の76mmバルカンが搭載されている。
地上のジム系MSに搭載されている、90mmマシンガンを凌ぐ火力を与えられており、フロンタル用に優れた防御力を与えられたクローネでも、シールドで防ぐしかなかった。
そうして進んでいくのを確認すると、不可視レーザー式の起爆装置を操作して、各所にっ搭載した爆弾が爆発していく。
「小細工を…!」
フロンタルは決して短気な男ではないが、嫌がらせの様に爆破されていく爆弾に、少々苛立っていた。
そこに、頭部を狙ってファイアストーンが襲い掛かる。
歩兵用である為、一発でMSを撃破することはできないが、関節部や頭部のセンサーを狙えば、想像以上にダメージを与えることができる。
事実、着弾時のダメージがモノアイに残る。
「次から次へと…!そこか!」
フロンタルが、フェードラに向けて高出力の専用ビームライフルを撃つ。
「危ない!」
ユニコーンが前に出て、シールドに搭載されたIフィールドが展開されて、ライフルを防ぐ。
「Iフィールドか…!」
着弾する瞬間に展開するもので、常時展開という訳ではないが、使いようによっては頼もしい防御用装備となる。
「バナージ。」
「ダグザさんは後方から援護を。ジェガン用のシールドじゃ、こいつのライフルは防げません。こいつは…。」
『俺の役目。俺の心が、知っている事…。』
NT-Dが発動して、装甲が展開していく。
『一人でも、死ぬ人を減らす事だ…!』
ビームライフルの高出力モード。
リゼルに乗るパイロットからは、ギロチンモードと呼ばれるモードでクローネを狙い、シールドに装備された連装ビームガトリングガンで濃密な弾幕を張る。
「厄介な…!」
フロンタルは、一旦、離脱する。
「ガンダムになった。ここからでも…!」
ランゲブルーノ砲改を撃ちまくりつつ、スラスターを全開にする。
「この距離なら…。」
ランゲブルーノ砲改をパージして、機体を軽量化。
ビームガトリングガンを撃ちつつ、ビームソードで斬りかかろうとするが、ユニコーンの姿が消えたと思えば、腕部のビームトンファーを展開して、四肢を切断して無力化。
クローネとの、接近戦に入る。
「成程。速いな。」
NT-Dの驚異的な機動性を可能な限り駆使して、バナージはフロンタルと戦う。
クローネとNT-D発動時のユニコーンの性能差は、歴然としている。
が、その差を自らの優れた操縦技術でカバーして、守勢に回りながらもフロンタルは持ちこたえる。
バナージは、戦法を一撃離脱に変更。
ビームマグナムに搭載している、ユニコーンの追加武装であるアームドアームの一つ、203mmの高初速高性能滑腔砲であるアームドアームHS(High performance Smoothbore)を発射して、回避した瞬間に接近して近接格闘戦に持ち込む。
それを繰り返す。
相手のペースにのまれないように、フロンタルは一旦、距離をとる。
その時、ビームガトリングで弾幕を張って、回避軌道を狭めて、HSを撃った次にビームマグナムを撃つ。
「ちぃっ!」
何とか回避するが、左脚部に少なからぬダメージを受ける。
フロンタルとしては、ファンネルを使用して仕切り直しと行きたいところだが、ユニコーンの性能がそれを不可能にしている。
親衛隊は、アンジェロのグフ・マールスが大破。
その他のザクⅣも3機撃墜、1機が右の腕部と脚部を失い中破している。
『NT-Dは発動した。サイコモニターで、次のポイントは把握できる。これ以上は、益はないな…。』
大破したグフ・マールスと中破したザクⅣを連れて、フロンタルは宙域を離脱する。
『さて、次はどこかな…?』
「敵部隊。後退していきます。」
フロンタルらが後退していったのとほぼ同時に、連合部隊に攻撃を仕掛けてきた残党達も撤退していった。
「陽動とはいえ、手こずりましたね。」
「ああ。」
ゼクドーガは、もう主力量産MSではないのだろう。
だからこそ、部隊を引き付ける事に適した武装に改装していた。
オットーとレイアムは、そう読んでいた。
「損傷が軽い機体から、可能な限り早く補給と修理を済ませろ。」
直衛であり、精鋭部隊でもあるサイレン隊は追加装甲を装備していたことから、機体にはダメージがほとんどない。
全機、既に補給を終えて、周辺を警戒している。
エルフやリゼルたちが戻ると、Rタイプが哨戒行動に入る。
しばらくは、攻めてくることはないだろうが、それでも念には念を入れる必要がある。
通常のブリッジに戻りはしたが、オットーは休みを取らずに警戒の指揮を執っていた。
「バナージ。大丈夫か?」
ダグザが通信を入れてくる。
「何とか…。」
今までにない程、苛烈な戦闘になったことで、バナージの肉体的疲労はかなりの物になっていた。
「少し、休んでいろ。ユニコーンはこちらで運ぶ。コンロイ、手伝ってくれ。」
「了解。」
ネェル・アーガマに帰還しようとすると、ガエルが傍らで護衛に着く。
ザクⅣは4機。
ユニコーンを守る機体は、フェードラ2機、シルヴァ・クロス1機。
数の差を埋めるのに、レーザー誘導プロトフィンファンネルや誘導アームが活躍した。
ニュータイプ用のファンネルには性能面で劣るが、有線でない点は有利に働いてオールレンジ攻撃が可能となる。
『パイロットの負担を一切無視して、機体の性能を引き上げる事のみ考えたHADESの落とし子に、アナハイムのノウハウが結実したレーザー誘導インコムか…。』
フェードラは、エコーズの中でも精鋭と認められた僅かな部隊に与えられる、高性能機である。
事実、ザクⅣに一度も不覚をとってはいない。
が、ラプラスの箱をめぐって、袖付きや残党達との戦いが激化することを考えると、プラスアルファの強力な兵装が欲しくなる。
『上に掛け合ってみるか。何とか、なるかもしれん。』
「バナージ。大丈夫?」
医務室で少し眠っていたバナージは、ミコットの腕の中で目を覚ました。
「ハサン先生の話だと、ブドウ糖の点滴をして、あとは休んでいれば大丈夫だって。」
「あ。うん。…!て!なんて格好だよ。」
バナージが見たミコットは、白のスポーツブラとスポーティーな白のショーツ。
下着姿だった。
「お願い。しばらく、こうさせて…。艦で世話になっている分は、雑用で少しは借りを返しているけど、バナージに対しては何も…。」
強く抱きしめるミコットは、僅かに震えていた。
羞恥ではない。
申し訳なさからだった。
バナージが戦うのは、自分たちの為だとすぐに分かった。
NT-Dを発動させたときのバナージの疲労は、凄まじく、医務室の常連になっていた。
そんなバナージを見て、何もできない自分が悔しかった。
必死に考えて、ミコットは眠っているバナージを抱きしめていることにした。
「じゃあ、その…。お言葉に甘えて、もう少し…。」
「うん…。」
目を覚ました物のまだ疲れが残っていたバナージは、目を瞑りもう少しの間、夢の住人でいることを選んだ。
「フェードラの改装ですか?」
ダグザは、艦長室でオットーから今後の任務について聞かされていた。
「ああ。今後、袖付きとの戦いは、より激化するだろう。それと、次のポイントの事も考慮しての改装が必要だと、アナハイムが結論を出した。既に、インダストリアル7から物資を積み込んだ、フィリップ・ワッツ級工作艦ウィリアム・ヘンリー・ホワイトが出港している。ミスターチャンのシルヴァ・クロスも同様に改装を行う。それにマーセナス少尉を加えて、3人でバナージ君と共に次のポイントに向かってもらう。あれで、マーセナス少尉は白兵戦でも中々の物だしな。」
タブレットには、改装後のシルヴァ・クロスと改装後の専用フェードラ、リディの士官学校卒業時の考課表が表示されていた。
エコーズの隊員には及ばないが、平均水準を超えており、そこらのチンピラや一般的なジオン残党相手なら問題はない。
リディは、アナハイムの倉庫に眠っていたZプラス系の試作機「クラウドスカッツ」に準サイコミュ系を強化する改修を施して、与えられることとなった。
「改装後。ビスト財団から派遣された特装艦を母艦として、向かってもらう。決して楽な任務ではないが、頼んだぞ。」
「はっ!」
その日、バナージは自室で着替えていた。
普通の服に見えるが、防刃素材でできており、中身には防弾用の超軽量セラミックス素材が入っている。
が、重さは普通の服とさほど変わらない。
軍の特殊任務で使用されている、装備である。
高速輸送船で、運ばれてきた様々な物資の中の一つである。
「バナージ…。」
「ごめん。起こしちゃったかな?」
バナージの視線の先には一糸まとわぬ姿で、タオルケットで胸元を隠したミコットがいた。
「ううん。着替えている時に、私も起きたから。あの…。」
「うん?」
「気を付けてね。ごめんね。我儘言って。」
ミコットの傍に行くと、バナージは頬にキスをする。
「付き合っているわけでもないのに受け入れた俺だって、褒められたもんじゃないよ。気にしないで…。」
据え膳食わぬは男の恥。
バナージは、その言葉の支持者ではないが、昨夜のミコットを受け入れないという選択肢を選ぶことが、何故かできなかった。
これから、どんな人生を歩み、2人の関係はどうなるか解らない。
それでも、バナージは受け入れた。
「じゃあ。行ってくる。ミコット達の事は、艦長達によくお願いしているから、心配しないで。戻ってきたら、また一緒に勉強しよう。」
そう言って、バナージは艦載シャトルに向かった。
「よっ。意外に隅に置けないな。」
シャトルに先についていたリディは、意味ありげな笑みを浮かべながら、バナージに話しかけてくる。
「何です。いきなり。」
「とぼけるなよ。昨日の夜。ミコットちゃんが、バナージの部屋に入って、しばらく帰ってこなかっただろう?他の連中に聞いても、ミコットちゃんを見たのはいなかったぞ。」
逃走路を潰されると、バナージは赤くなり目が泳ぎ始めた。
「ま。男なら、そういう時もあるさ。戻ってこないかもって思って。なら。って、考えたんだろうな。俺も、初陣の時に、仲良くなった女性兵がいてさ。そん時にな。」
そう言ってウィンクすると、リディは席に座った。
しばらくすると、ガエルがバナージの隣に座り、近くにダグザが座る。
そして、シャトルが発進した。
まずは、地球周辺詭道で待機している、特装艦シリウスとランデブー。
そして、次のポイントがある蒼き惑星。
地球へと行くことになる。
シャトルに乗っている人間は誰も気づいていないが、艦に積み込まれる荷物の中に紛れ込んでいる者がいた。
後書き
かなり久しぶりの投稿です。
改修したモノケロス相手なら、優勢に戦いを進められたフロンタルのクローネですが、NT-Dが発動して、アームドアームで火力が向上したユニコーン相手ではそうもいきませんでした。
付き従った親衛隊もかなりの損害。
まして、アンジェロは新型のグフ・マールスが戦闘不能に。
それでも、NT-Dを発動させたことで、零点ではないと判断。
次の手を打つようです。
その中で、力不足を感じているのが、意外にもダグザ中佐。
全身をサイコフレームで構成した超常的なインターフェースで、発動時には圧倒的な性能を発揮するユニコーン。
HADESの系譜に繋がるシステムであるTHANATOSを搭載する、ガエルのシルヴァ・クロス。
それに比べて、自身のフェードラに力不足差を感じるという、どこから見ても模範的な軍人であるダグザに相応しくない一面が垣間見えます。
そして、バナージらは地球に、次の目的地が判明したことで、改修用パーツを積んだ工作艦と専用の特務艦を、マーサが手配。
ま、ろくなこと考えてないでしょうけど。
この婆さん、誰か暗殺しないのかな?

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