機動戦士ガンダムUC 二次創作 機動戦士ガンダムUC理想への旅 第18話 人類の歴史、人類の事情
「首相官邸。ラプラス。宇宙歴1年0時ジャストに、テロリストが仕掛けた爆弾が爆発。初代首相リカルド・マーセナスが死亡。その後、旧国際連合に加盟していた国の軍隊を統合して、連邦軍が発足。地球連邦政府が宇宙移民を進めて、連邦軍が宇宙世紀のテロリストを鎮圧していった…。ですよね?」
「そうだ。地球連邦発足時の地球の人口は、90億。もはや地球上で人類を養うのは限界だと、誰の目にも明らかだった。が、自ら望んで、宇宙移民に名乗りを上げた人間ばかりじゃない。大方、当時のラプラス爆破事件のテロリストの言い分は、そんなところだろう。それでも、無理やりにでも、移民させるしかなかった。その為に、地球連邦発足が決定した。だが、最初から茨の道だった。当初の予想以上に、力ずくで進めるしかない。失業者、刑事事件犯罪者、思想犯。そういった人間をアステロイドベルトの資源衛星に送り出すとともに、建設が進んでいた各コロニーを宇宙のフロンティアとして、盛んに宣伝。移民に乗り気でなかった人間も、移民していった。爆破事件後の混乱は大変な物だったが、結果的には、良い方向に働いた。一時の混乱後は、連邦政府が移民をスムーズに進めつつ、反抗してテロに走る人間を連邦軍が拘束。という、政府にも軍にも理想的な流れができた。」
ダグザが、宇宙世紀の歴史を大まかに説明すると、バナージがどこか軽蔑するような表情になる。
「まるで、連邦政府がマーセナス首相の殺害を主導したように聞こえます。もしそうなら、首相は生贄じゃないですか。首相だけじゃない、沢山のジャーナリズムもいたんでしょう。まとめて、連邦と軍が自由に動けるようにするための供物にしたという風にしか、聞こえませんよ。」
「大人の世界。政治の世界では、そういったことが起こりうるという事だ。真相は不明だし、当時の人間もとっくに死んでいる。リカルド・マーセナスの死。それが誰の手によるものかは、いまさら調べようもない。冷たい言い方に聞こえるだろうが、調べても無駄だ。仮に連邦政府主導だとしても、それを明らかにして何になる?連邦を悪と断ずるか?誰が得をする?するとしたら、袖付きが自分たちの正当化に用い、ジオン残党が勢いづいて、やっと少なくなってきた連中の蜂起が、増えるだけだ。そして、無駄に血が流れる。死ななくてもいい人間がだ。あるいは、ラプラスの箱の中身は、爆破事件に関わる何かかもしれんな。」
ダグザがそう言うと、バナージは小さく息を吐く。
「それはないと思います。これは俺の父の印象による考えですが、少なくとも、ラプラスの箱が世界に混乱を起こすような物じゃないから、俺を含めたこの世界に託したんだと思います。開けるか。そのまま封印して、別の手段で世界の光を探すか。確かに、当時の事を今更調べたって意味がないのかもしれない。なら、世界をより良い方向にもっていく道を、探すべき。もし、それにラプラスの箱が役に立つのなら。そんな願いを込めていた。そう思えます。」
ダグザは小さく笑った。
「親子そろって、中々のロマンチストだな。君も父上も、世界とそこに住む人を信じているのかな。優しい証拠だ。俺と違ってな。そろそろか…。コンロイ。周辺を厳重に警戒しつつ、こちらの監視も頼む。僅かでも変化があったら、すぐに知らせろ。」
「了解。」
「0時ジャスト迄20秒、15秒、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。0時ジャスト。ゼロポイントを通過しました。」
「0時ジャスト。ゼロポイントを通過。RX-0に反応無し。」
「サイコモニターも確認できず。NT-D、確認できず。」
ネェル・アーガマには、MSから発せられるニュータイプあるいは強化人間のサイコミュの波動であるサイコウェーブを感知する特殊な装置であるサイコモニターが、補給品と共に運ばれてきていた。
これにより、ゼロポイント通過時のユニコーンの反応を調べようとしたが、サイコウェーブは探知されなかった。
「コンロイ。外観に変化ないか?」
「いえ、ラプラス、RX-0双方とも変化なし。」
「どういうことだ…?」
コンロイからの報告を受けて、ダグザはポイントがここに指定されていた意味について、考えた。
本当は、特に何もないか?
それとも、とっくに手掛かりは誰かに持ち去られているか?
何か、別の解釈が存在するか?
地球と…、宇宙の皆さん…。こんにちは…。
考えていると聞こえてきたのは、何かの放送だった。
『初代首相。リカルド・マーセナスの宇宙歴1年の演説…だと…。』
95年前の連邦政府設立時の、リカルド・マーセナスの演説。
聞こえていたのは、それだった。
「コンロイ。どこからこれが発信されている?解るか?」
「それが…、RX-0からなんです。」
「ここからだと…?」
さすがに、それは予想外だった。
しかも、今、ことさら関係ない、連邦政府設立の演説。
ダグザは、軽くパニックになっていた。
「確認しました。ダグザさん。間違いありません。」
システムを点検したバナージが、コンロイの答えが正しい事を証明する。
「そのようだな。」
しばらく聞いていると、バナージの頭の中にビジョンが浮かぶ。
貴婦人と一角獣、最後の一枚。
私のたった一つの望み。
そこに、1人の人間が現れる。
歴史の教科書で、幾度も見た顔。
地球連邦初代大統領、リカルド・マーセナス。
親しげな表情で、バナージに何かを話そうとする。
が、少し険しげな表情で、何かを見つめた。
『どうしたんです?俺に、用があったんじゃないんですか?』
そう話しかけるようにイメージを浮かべると、リカルドは頷き、こう言った。
『君なら、大丈夫だろう。』
と…。
『えっ?』
戸惑いながらも、意味が分かったような気がした。
「はっ…!」
時間にして、数秒だっただろう。
だが、確かにバナージは、こことは別の次元で、リカルド・マーセナスと会っていた。
その確信が、バナージにはあった。
意識が現実に引き戻されると、ユニコーン各部のサイコフレームが輝き始めた。
そして、バナージは、フットペダルを力強く踏み込む。
「バナージ。どうした?」
「来ます。すごい数です。部隊が狙われています。それから、すごく強い反応が一つ。確信はないですけど、フル・フロンタルじゃないかと。ユニコーンと首相が、教えてくれました。」
『本物のニュータイプか。』
今まで、ニュータイプに会った事はないダグザだが、バナージは間違いなくニュータイプだと、確信した。
「RX-0。ラプラスから離れます。」
「どういうことだ?」
放送といいバナージの行動といい、考えても解らずじまいだった。
「RX-0、ダグザ中佐から、通信。多数の敵が近づきつつあり。警戒されたし。」
「!ミノフスキー粒子。かなりの濃度です。」
「第3戦隊旗艦サンサーラより入電。ミノフスキー粒子濃度急速に上昇。警戒されたし!」
「第1戦闘配置発令。対空、対MS戦闘用意。総員、ノーマルスーツ着用。戦闘ブリッジ、開け!MS隊は警戒配置から戦闘配置に移行。どこから敵が出てくるか、知れんぞ。周辺監視を、厳と為せ。」
受話器を取って、オットーは全艦に指示を出す。
「仮にも、地球の絶対防衛圏。下手に地球に近づけば、大気圏内で燃え尽きるか、防衛網からの対空砲火の餌食になるか、どちらかです。」
「そうならずに戦闘が可能な精鋭部隊が、いるという事だろうな。フル・フロンタル直下の部隊がいても別に驚きはせん。直衛、哨戒以外、出せる機体はすべて出せ!」
艦に残っていたMSも次々と発進して、重厚な防御陣を形成する。
『これで、対処できると助かるのだが、あのアムロ・レイとカミーユ・ビダンを退けたというフル・フロンタル。赤い彗星の再来とも呼ばれていたか…。ロンド・ベルといえども一筋縄ではいかんだろう。』
ラプラスの箱に関わり始めて以来損害は出ていないが、今度ばかりはそうもいかないだろう。
オットーはそう考えて、パックの水を一口飲むと両頬を叩いて気合を入れる。
フロンタルが指揮する部隊以外に、他の残党を糾合しての部隊が出てくる事も想定している為に、そちらの事も考慮する必要があった。
連邦軍全体を比べれば、残党は明らかに寡兵である。
が、基本的に任地を動かない駐留部隊以外に自由に動き回れるロンド・ベルと比較すれば、兵力では決して侮れない。
まして、地球圏全体を任地とするロンド・ベルは、戦隊ごとに動くことが多い。
第3戦隊が合流しているとはいえ、気は抜けなかった。
「4時方向ミサイル多数!」
『やはりか!』
「デコイ発射!3時方向!迎撃ミサイル、用意!全砲門開け!」
ミサイルのほとんどが、デコイが発する熱反応に食いついていった。
が、全てではない。
他のミサイルは、迎撃ミサイルで撃破。
他は、対空砲火で撃破に成功。
「MS部隊多数。突っ込んできます。」
「モニターに出せるか?」
「はっ!」
表示されたのは、下半身に巨大なバーニアを搭載したMSだった。
上半身はゼクドーガである。
巨大なヒートランスを持ち、ミサイルとビームアサルトライフルを背部バックパックに搭載。
近接戦闘と近中距離の射撃戦との併用を可能とした、改修機。
オットーは、そう判断した。
「各艦、支援砲撃開始。ディフェンサーユニットを装備したリゼルと共に、エルフ隊を支援。味方に当てるなよ。」
射撃兵装を装備しているとはいえ、改修されたゼクドーガは近接戦闘にウェイトを置いているのは明らかだった。
であれば、長射程兵装を搭載しているMSは、後方から近中距離での戦闘に長けているエルフの支援に充てるのがよい。
オットーは、そう考えた。
無論、それですべて終わりではない。
「MS。さらに接近。機種は様々な種類に及びます。」
戦闘ブリッジのメインモニターに、様々な種類のMSのデータが表示される。
「ロンド・ベルは、別動隊が引き受けてくれている。我々は、NT-Dが発動するように嗾ける。」
「はっ。」
「手加減するなよ。堕とすつもりで戦え。でなければ、ガンダムには勝てんぞ!」
「親衛隊。露払いをさせていただきます!!」
「君の予感が当たったな。が、当初から警戒態勢を敷いていたので、迎撃がスムーズにできた。他に、何か感じないか?
「いた。1機。その後ろに4機。来ます!」
長距離からのビーム砲。
ランゲブルーノ改の狙撃を回避すると、バナージは距離を詰めようとする。
「ビームマグナムを使え。この距離なら、射程内に収める。」
「駄目です。あれは、フル・フロンタル用の切り札です。接近すれば!!」
バナージはフットペダルを踏み込むと同時に、リゼルで使用されているBR-M-95Aビームライフルを、エネルギーCAP方式に改めてユニコーン向けに調整したXBR-M-95Aを装備する。
「こいつ!ちょろちょろと!!」
アンジェロは、グフ専用に調整されたランゲブルーノ砲改でユニコーンを狙撃するが、バナージは確実に回避していく。
逆に、ザクⅣが1機撃破される。
コンロイが駆るフェードラと、ガエルが駆るシルヴァ・クロスが追い付き、後方からは、リディがメガ・ビーム・ランチャーで支援する。
シルヴァ・クロスのレーザー誘導式プロトフィンファンネルが、ザクⅣを巧みな攻撃で1機撃破する。
「バナージ様。ご無事で。」
「俺は、大丈夫です。フル・フロンタルについているMS隊を頼みます。ネェル・アーガマは?」
「現在、迎撃戦闘中。敵の数は思ったより多いですが、優勢です。」
バナージは安堵の息を吐く。
「隊長。一旦後退を。隊長専用のフェードラを待機させています。」
「了解した。バナージ。」
「はい。ラプラスの中に入りましょう。中は狭いですから、時間も稼げます。」
ユニコーンは、ラプラスの中に戻った。
後書き
首相官邸ラプラスに向かう途中は、ダグザによる地球連邦発足とその時の爆弾テロに、それを巡る話です。
初めて話を見た時は、どう考えてもマーセナス首相は、生贄にしか見えませんでしたね。
歴史的なセレモニーですから、警備は厳重の上にも厳重だったはず。
にもかかわらず、爆弾テロが起きました。
その後の、宇宙移民、連邦軍の活動等を考慮すると、やはり他の政府関係者による暗殺と見ていいと思います。
そうだと、辻褄があう事が多いですからね。
そして、午前0時にゼロポイント通過。
情報開示ではなく、袖付きと宇宙にいる残党のお出ましです。
今度は、最初からデストロイモードにする気ですから、その気で戦わないと危険でしょう。

ラプラスの亡霊 機動戦士ガンダムUC(5) (角川文庫) - 福井 晴敏

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「そうだ。地球連邦発足時の地球の人口は、90億。もはや地球上で人類を養うのは限界だと、誰の目にも明らかだった。が、自ら望んで、宇宙移民に名乗りを上げた人間ばかりじゃない。大方、当時のラプラス爆破事件のテロリストの言い分は、そんなところだろう。それでも、無理やりにでも、移民させるしかなかった。その為に、地球連邦発足が決定した。だが、最初から茨の道だった。当初の予想以上に、力ずくで進めるしかない。失業者、刑事事件犯罪者、思想犯。そういった人間をアステロイドベルトの資源衛星に送り出すとともに、建設が進んでいた各コロニーを宇宙のフロンティアとして、盛んに宣伝。移民に乗り気でなかった人間も、移民していった。爆破事件後の混乱は大変な物だったが、結果的には、良い方向に働いた。一時の混乱後は、連邦政府が移民をスムーズに進めつつ、反抗してテロに走る人間を連邦軍が拘束。という、政府にも軍にも理想的な流れができた。」
ダグザが、宇宙世紀の歴史を大まかに説明すると、バナージがどこか軽蔑するような表情になる。
「まるで、連邦政府がマーセナス首相の殺害を主導したように聞こえます。もしそうなら、首相は生贄じゃないですか。首相だけじゃない、沢山のジャーナリズムもいたんでしょう。まとめて、連邦と軍が自由に動けるようにするための供物にしたという風にしか、聞こえませんよ。」
「大人の世界。政治の世界では、そういったことが起こりうるという事だ。真相は不明だし、当時の人間もとっくに死んでいる。リカルド・マーセナスの死。それが誰の手によるものかは、いまさら調べようもない。冷たい言い方に聞こえるだろうが、調べても無駄だ。仮に連邦政府主導だとしても、それを明らかにして何になる?連邦を悪と断ずるか?誰が得をする?するとしたら、袖付きが自分たちの正当化に用い、ジオン残党が勢いづいて、やっと少なくなってきた連中の蜂起が、増えるだけだ。そして、無駄に血が流れる。死ななくてもいい人間がだ。あるいは、ラプラスの箱の中身は、爆破事件に関わる何かかもしれんな。」
ダグザがそう言うと、バナージは小さく息を吐く。
「それはないと思います。これは俺の父の印象による考えですが、少なくとも、ラプラスの箱が世界に混乱を起こすような物じゃないから、俺を含めたこの世界に託したんだと思います。開けるか。そのまま封印して、別の手段で世界の光を探すか。確かに、当時の事を今更調べたって意味がないのかもしれない。なら、世界をより良い方向にもっていく道を、探すべき。もし、それにラプラスの箱が役に立つのなら。そんな願いを込めていた。そう思えます。」
ダグザは小さく笑った。
「親子そろって、中々のロマンチストだな。君も父上も、世界とそこに住む人を信じているのかな。優しい証拠だ。俺と違ってな。そろそろか…。コンロイ。周辺を厳重に警戒しつつ、こちらの監視も頼む。僅かでも変化があったら、すぐに知らせろ。」
「了解。」
「0時ジャスト迄20秒、15秒、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。0時ジャスト。ゼロポイントを通過しました。」
「0時ジャスト。ゼロポイントを通過。RX-0に反応無し。」
「サイコモニターも確認できず。NT-D、確認できず。」
ネェル・アーガマには、MSから発せられるニュータイプあるいは強化人間のサイコミュの波動であるサイコウェーブを感知する特殊な装置であるサイコモニターが、補給品と共に運ばれてきていた。
これにより、ゼロポイント通過時のユニコーンの反応を調べようとしたが、サイコウェーブは探知されなかった。
「コンロイ。外観に変化ないか?」
「いえ、ラプラス、RX-0双方とも変化なし。」
「どういうことだ…?」
コンロイからの報告を受けて、ダグザはポイントがここに指定されていた意味について、考えた。
本当は、特に何もないか?
それとも、とっくに手掛かりは誰かに持ち去られているか?
何か、別の解釈が存在するか?
地球と…、宇宙の皆さん…。こんにちは…。
考えていると聞こえてきたのは、何かの放送だった。
『初代首相。リカルド・マーセナスの宇宙歴1年の演説…だと…。』
95年前の連邦政府設立時の、リカルド・マーセナスの演説。
聞こえていたのは、それだった。
「コンロイ。どこからこれが発信されている?解るか?」
「それが…、RX-0からなんです。」
「ここからだと…?」
さすがに、それは予想外だった。
しかも、今、ことさら関係ない、連邦政府設立の演説。
ダグザは、軽くパニックになっていた。
「確認しました。ダグザさん。間違いありません。」
システムを点検したバナージが、コンロイの答えが正しい事を証明する。
「そのようだな。」
しばらく聞いていると、バナージの頭の中にビジョンが浮かぶ。
貴婦人と一角獣、最後の一枚。
私のたった一つの望み。
そこに、1人の人間が現れる。
歴史の教科書で、幾度も見た顔。
地球連邦初代大統領、リカルド・マーセナス。
親しげな表情で、バナージに何かを話そうとする。
が、少し険しげな表情で、何かを見つめた。
『どうしたんです?俺に、用があったんじゃないんですか?』
そう話しかけるようにイメージを浮かべると、リカルドは頷き、こう言った。
『君なら、大丈夫だろう。』
と…。
『えっ?』
戸惑いながらも、意味が分かったような気がした。
「はっ…!」
時間にして、数秒だっただろう。
だが、確かにバナージは、こことは別の次元で、リカルド・マーセナスと会っていた。
その確信が、バナージにはあった。
意識が現実に引き戻されると、ユニコーン各部のサイコフレームが輝き始めた。
そして、バナージは、フットペダルを力強く踏み込む。
「バナージ。どうした?」
「来ます。すごい数です。部隊が狙われています。それから、すごく強い反応が一つ。確信はないですけど、フル・フロンタルじゃないかと。ユニコーンと首相が、教えてくれました。」
『本物のニュータイプか。』
今まで、ニュータイプに会った事はないダグザだが、バナージは間違いなくニュータイプだと、確信した。
「RX-0。ラプラスから離れます。」
「どういうことだ?」
放送といいバナージの行動といい、考えても解らずじまいだった。
「RX-0、ダグザ中佐から、通信。多数の敵が近づきつつあり。警戒されたし。」
「!ミノフスキー粒子。かなりの濃度です。」
「第3戦隊旗艦サンサーラより入電。ミノフスキー粒子濃度急速に上昇。警戒されたし!」
「第1戦闘配置発令。対空、対MS戦闘用意。総員、ノーマルスーツ着用。戦闘ブリッジ、開け!MS隊は警戒配置から戦闘配置に移行。どこから敵が出てくるか、知れんぞ。周辺監視を、厳と為せ。」
受話器を取って、オットーは全艦に指示を出す。
「仮にも、地球の絶対防衛圏。下手に地球に近づけば、大気圏内で燃え尽きるか、防衛網からの対空砲火の餌食になるか、どちらかです。」
「そうならずに戦闘が可能な精鋭部隊が、いるという事だろうな。フル・フロンタル直下の部隊がいても別に驚きはせん。直衛、哨戒以外、出せる機体はすべて出せ!」
艦に残っていたMSも次々と発進して、重厚な防御陣を形成する。
『これで、対処できると助かるのだが、あのアムロ・レイとカミーユ・ビダンを退けたというフル・フロンタル。赤い彗星の再来とも呼ばれていたか…。ロンド・ベルといえども一筋縄ではいかんだろう。』
ラプラスの箱に関わり始めて以来損害は出ていないが、今度ばかりはそうもいかないだろう。
オットーはそう考えて、パックの水を一口飲むと両頬を叩いて気合を入れる。
フロンタルが指揮する部隊以外に、他の残党を糾合しての部隊が出てくる事も想定している為に、そちらの事も考慮する必要があった。
連邦軍全体を比べれば、残党は明らかに寡兵である。
が、基本的に任地を動かない駐留部隊以外に自由に動き回れるロンド・ベルと比較すれば、兵力では決して侮れない。
まして、地球圏全体を任地とするロンド・ベルは、戦隊ごとに動くことが多い。
第3戦隊が合流しているとはいえ、気は抜けなかった。
「4時方向ミサイル多数!」
『やはりか!』
「デコイ発射!3時方向!迎撃ミサイル、用意!全砲門開け!」
ミサイルのほとんどが、デコイが発する熱反応に食いついていった。
が、全てではない。
他のミサイルは、迎撃ミサイルで撃破。
他は、対空砲火で撃破に成功。
「MS部隊多数。突っ込んできます。」
「モニターに出せるか?」
「はっ!」
表示されたのは、下半身に巨大なバーニアを搭載したMSだった。
上半身はゼクドーガである。
巨大なヒートランスを持ち、ミサイルとビームアサルトライフルを背部バックパックに搭載。
近接戦闘と近中距離の射撃戦との併用を可能とした、改修機。
オットーは、そう判断した。
「各艦、支援砲撃開始。ディフェンサーユニットを装備したリゼルと共に、エルフ隊を支援。味方に当てるなよ。」
射撃兵装を装備しているとはいえ、改修されたゼクドーガは近接戦闘にウェイトを置いているのは明らかだった。
であれば、長射程兵装を搭載しているMSは、後方から近中距離での戦闘に長けているエルフの支援に充てるのがよい。
オットーは、そう考えた。
無論、それですべて終わりではない。
「MS。さらに接近。機種は様々な種類に及びます。」
戦闘ブリッジのメインモニターに、様々な種類のMSのデータが表示される。
「ロンド・ベルは、別動隊が引き受けてくれている。我々は、NT-Dが発動するように嗾ける。」
「はっ。」
「手加減するなよ。堕とすつもりで戦え。でなければ、ガンダムには勝てんぞ!」
「親衛隊。露払いをさせていただきます!!」
「君の予感が当たったな。が、当初から警戒態勢を敷いていたので、迎撃がスムーズにできた。他に、何か感じないか?
「いた。1機。その後ろに4機。来ます!」
長距離からのビーム砲。
ランゲブルーノ改の狙撃を回避すると、バナージは距離を詰めようとする。
「ビームマグナムを使え。この距離なら、射程内に収める。」
「駄目です。あれは、フル・フロンタル用の切り札です。接近すれば!!」
バナージはフットペダルを踏み込むと同時に、リゼルで使用されているBR-M-95Aビームライフルを、エネルギーCAP方式に改めてユニコーン向けに調整したXBR-M-95Aを装備する。
「こいつ!ちょろちょろと!!」
アンジェロは、グフ専用に調整されたランゲブルーノ砲改でユニコーンを狙撃するが、バナージは確実に回避していく。
逆に、ザクⅣが1機撃破される。
コンロイが駆るフェードラと、ガエルが駆るシルヴァ・クロスが追い付き、後方からは、リディがメガ・ビーム・ランチャーで支援する。
シルヴァ・クロスのレーザー誘導式プロトフィンファンネルが、ザクⅣを巧みな攻撃で1機撃破する。
「バナージ様。ご無事で。」
「俺は、大丈夫です。フル・フロンタルについているMS隊を頼みます。ネェル・アーガマは?」
「現在、迎撃戦闘中。敵の数は思ったより多いですが、優勢です。」
バナージは安堵の息を吐く。
「隊長。一旦後退を。隊長専用のフェードラを待機させています。」
「了解した。バナージ。」
「はい。ラプラスの中に入りましょう。中は狭いですから、時間も稼げます。」
ユニコーンは、ラプラスの中に戻った。
後書き
首相官邸ラプラスに向かう途中は、ダグザによる地球連邦発足とその時の爆弾テロに、それを巡る話です。
初めて話を見た時は、どう考えてもマーセナス首相は、生贄にしか見えませんでしたね。
歴史的なセレモニーですから、警備は厳重の上にも厳重だったはず。
にもかかわらず、爆弾テロが起きました。
その後の、宇宙移民、連邦軍の活動等を考慮すると、やはり他の政府関係者による暗殺と見ていいと思います。
そうだと、辻褄があう事が多いですからね。
そして、午前0時にゼロポイント通過。
情報開示ではなく、袖付きと宇宙にいる残党のお出ましです。
今度は、最初からデストロイモードにする気ですから、その気で戦わないと危険でしょう。

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