機動戦士ガンダムUC 二次創作 機動戦士ガンダムUC理想への旅 第17話 ファーストポイント

「ロンド・ベル第2戦隊、第3戦隊が、合流しました。今後の協議をしてから、例のポイントに向かう事となります。」
 アンジェロらを退けて、アルベルトはマーサとの通信をしていた。
「ご苦労様。さすがは、ロンド・ベル。いい働きをしてくれるわ。バナージの様子は?」
「休養を終えて、もう戦えます。しかし、やはりNT-Dは過酷なようで…。」
 NT-Dには、エプシィでの実験データを基に、限界を大きく超えてかかるGを薬理的に和らげるシステムが搭載されている。
 それでも、まだ16歳でつい最近まで普通の少年として暮らしていたバナージには、過酷であった。
 ミコットやタクヤ、オードリーの安全の確保が保証されていなければ、到底搭乗を受け入れなかっただろう。
 それほど、過酷なシステムだった。
「元々は、強化人間の搭乗が前提だったMSだもの。その点はしょうがないわ。情けをかけるのはお勧めできないわ。あなたが辛くなるだけよ。アルベルト。」
 バナージへの負担に、今夜の晩餐のメインディッシュより興味がないマーサは、冷徹に言い放った。
「は、はあ…。」
 経営手腕は優れているが、アルベルトは普通の人間性の持ち主であり、マーサほどに冷徹にはなりきれない。
 まして、妾腹の子とはいえ、バナージは弟である。
 肉親の情も、ある。
「まあ。それはそれとして、あなたには地球に戻ってもらいます。旅客船をチャーターしました。北米のオーガスタに向かって。そこで、ある人物と待ち合わせて頂戴。その後、次の指示を出します。」
「はっ。解りました。しかし、オーガスタですか…。」
 嘗て、連邦のニュータイプ研究所があった地である。
 キャスバルの発案でエイフが発足してからは、その研究が違法となり施設は閉鎖されている。
「閉鎖されているけれど、相応に施設は残っているわ。中々に使えてよ。連邦には、独自に箱を入手する動きもあるとか…。のんびりしている場合ではないわよ。こちらはこちらで、動く準備をしていないと出し抜かれるかも。箱あればこその、ビスト財団の繁栄。正念場よ。アルベルト。それから…。」
 何か面白い事を見つけた子供を思わせる表情のマーサが、タブレットのデータを送信する。
「面白い連中を見つけたわ。バナージの御供位は務められるはずよ。そちらに行くように、手配を済ませたわ。」
 そして、通信を終えた。

 アルベルトは、大きな溜息をついた。
 確かに、箱あってこそのビスト財団の繫栄である。
 が、その為に、血族を犠牲にしかねない行動が正しいのか?
 どうしても、それに対する疑問が頭を離れない。
 バナージに会うのは初めてだが、母親のアンナには数回会ったことがある。
 聡明で、尊敬に値する人格者だった。
 だからこそ、ビスト財団の血の呪縛に愛する我が子のバナージが囚われる事を嫌ったのは、容易に察しが付く。
 なのに、また、ビスト財団の呪縛に捕らわれるような事をしてしまった。
 それに対して、罪の意識を感じずにはいられなかった。
『私にできることは、些細だが、せめて友人の事に関しては責任を取りたい物だ…。』

 襲撃から、数日後。
 第2、第3戦隊の連合部隊は、あるポイントに到着していた。
「ラプラスと聞いて、一番に思いつくのが、ここではあるがな。」
「緯度0、経度0、高度200km。首相官邸ラプラスの残骸が通るポイントか。」
 ネェル・アーガマを訪れていた、第3戦隊旗艦サンサーラ艦長兼第3戦隊司令官のアーチボルド・ワッケイン大佐とオットーは、目の前の残骸が通るポイントを見ていた。
「いかにもすぎて、疑いたくもなりますが…。」
 レイアムが、2人の会話に加わる。
「灯台下暗しとも言えなくもないが、調べてみる価値はあるかな。各機、周辺警戒を怠るな。補給作業は?」
「後30分で終了します。」
 首相官邸ラプラスが通る地点。
 通称ゼロポイント付近で、連合部隊は補給を受けていた。
 老朽化したコロンブス級に代わって建造された、マルコ・ポーロ級補給艦のレイフ・エリクソン、イブン・バットゥータが、それぞれ補給作業を行っている。
「ユニコーンの準備は?」
「後40分。」
「随伴機は?」
「シルヴァ・クロス、エコーズよりフェードラ2機、周辺警戒に、Sタイプとエコーズ仕様のRタイプ。」
 RST-93 Sタイプ。
 特殊作戦向けに、エコーズからの依頼を受けて開発された複座型MS。
 それに対して、アナハイムの先進技術部門ウィングワークスは、ネオジオンの可変MSであるAMX-102 ズサのMS形態を参考に設計する事で、要求に応えた。
 特殊任務向けの各種センサーを搭載し、兵員室には6名の兵士が搭乗可能。
 タンク形態にも、変形する。
 標準兵装の203mm低反動キャノン砲の他は、任務を考慮して様々な兵装を搭載可能。
 ハッキング用コネクタやレーザートーチといった装備も、搭載されている。
 Rタイプのエコーズ仕様は、特殊任務に最適な各種センサーの構成になっており、大いに任務を助ける。
「直衛のサイレン部隊以外で、出せる機体は可能な限り出せ。以前のニュータイプ機体を追い払ったことを重視して、フル・フロンタル自ら出てくる可能性もある。可能な限り周囲を固めろ。」

「ここまで近づくのは、初めてだな。私が子供の頃は、史跡見学のルートからはとっくに離れていた。」
 ブリッジに、アルベルトが入ってきた。
「艦長。色々と世話になった。私は、北米に行くことになった。最後までご一緒できないのは、残念だが…。部隊の武運長久を祈らせてもらう。」
 そう言って、オットーと握手をする。
「こちらこそなんて言わんよ。あんたがこの艦に来てからは、ろくな事がなかった。その顔は当分忘れられそうもない。バナージ君とは?」
「既に会ってきた。少々、藪蛇になってしまったがね。今生の別れではないし、もし、ラプラスの箱に関わることで地球に来る事があれば、また会う事もあるだろう。それまでは…。」
「解っている。やれることはやる。」
「それを聞いて安心した。では、失礼する。」
 そう言って、アルベルトは旅客船に向かった。

「妙ですね。ネェル・アーガマに無理やり乗り込んできてまで、箱にこだわっていたのに。ビスト財団。何を考えているのでしょうか?」
 レイアムが、訝しむ。
「彼もまた、宮仕えという事かもしれんよ。アナハイムの取締役だが、ビスト財団内で言えば、さらに上もいるんだろうさ。が、どうにも、奇妙な点ではある。ラプラスの箱をめぐるレースは、まだ続きそうなのに、途中で半ばリタイヤだ。」
 オットーも考え込む。
 最後まで、艦にいて、ラプラスの箱を抑えると思っていたからだ。
 ビスト財団と連邦政府の関係を鑑みれば、その方が自然だ。
 なのに、地球へ向かった。
 その点が、気にかかった。
「ひょっとしたら、ユニコーンが示す次のポイントは、地球のどこかかもしれん。そう考えて、何かの目的で地球に向かうのかもしれんな。それはそれとして、あの、オードリー・バーンという少女。どこかで、見た記憶がある。不思議な事に、ダグザ中佐もそう言っていたな。」
 アルベルトの事を気にしつつ、オットーはオードリーの事も気にかかっていた。
 確証はないが、どこかで見た記憶がある。
 それも、重要な。
 ダグザも、似たようなことを言っている。
 だが、そこから先は解らなかった。

「RX-0発進します。続いて、随伴機。」
 補給作業が終了して、15分後。
 ユニコーンが、発進していく。
 シールドには、旧ジオンのグフのヒートロッドに似た、アームドアームVWが新たに装備されている。
 これで、近距離における格闘戦の性能が、引き上げられ。
 シールドの重量増に合わせて、スラスターやアポジモーターが調整を受けている。
「今更と言われると思いますが、正直、彼には申し訳ないですね。半ば人質を取るような真似をしてまで…。」
 レイアムが、ぼそりと呟く。
「そうだな…。」
 溜息を飲み込みつつ、オットーも呟く。
 内々でのあるミーティングなようなことを、思い出していた。

「ユニコーンが示した、座標である、ゼロポイント。そこで機体を稼働させてもらう。機体には、私が同乗する。」
 一方的に、ダグザがバナージに伝える。
 艦長室の応接セットには、バナージとダグザが座っており、前にはダージリンの紅茶がおそろいのティーセットに注がれており、芳香が部屋を満たしていた。
「そんなに俺が信用できませんか?わざわざ、ユニコーンに同乗する意味って、何です?」
 いかにも不信感をむき出しにして言うと、バナージは紅茶を飲み干す。
「別に、君に不信感を抱いてはいない。ただ、袖付きの襲来があり、君を機体ごと拿捕する可能性もある。それに対しての用心だ。その程度が解っていないはずがない。子供っぽく、癇癪を起こすのはやめろ。」
「言いたくもなりますよ。ミコットやタクヤは、いまだにネェル・アーガマにいる。オードリーもだ。安全な所に。インダストリアル7に降ろすって約束でしょう!?」
「それは、アルベルト氏と君との約束だ。我々は、一切関与してはいない。二度の戦闘行為に介入。しかも、強力な武器を手にしてだ。どのような事情であれ、今後に対しての責任もあるだろう。武器を手にして戦うという事は、そういう事だ。」
 武器を手にすることは、相手に殺す資格を与えるだけではない。
 少なからぬ人の人生に介入し、世界の流れにも影響を与える。
 もし、軍人になるのなら、それをよく考えて欲しい。
 嘗て、母であるアンナが言った言葉を、バナージは思い出す。
「母にも言われたことがあります。それがなくても、俺は俺の考えがあって、ユニコーンに乗る。でも、ミコットやタクヤ。オードリーを巻き込むのは、やめてください!!まして、ミコットやオードリーは、女の子なんですよ。それでも、人質同然にこの艦にいる。この訳の解らない宝探しの間、ずっと人質として留め置く気ですか!?何度もいいますが、3人がいなくても、俺は俺の考えでユニコーンに乗る。それでも、信用できませんか。ラプラスの箱は、袖付きも狙っている。襲ってくる度に、ミコットは震えている。死ぬかもしれないし、そうでなくとも命の危機が襲ってくれば、怖くて震えても非難なんかできるわけない。それとも、あなたたちにはその資格があるんですか。みんな、巻き込まれただけなんですよ!?」
 バナージは必死に、ミコット達を安全な場所に降ろすように求める。
 それでも、ダグザは頑としてそれを受け入れようとしなかった。
 それを見たダグザは、無言で軍服のポケットから折りたたまれた紙を取り出して広げて見せる。
『一切喋るな。艦内や補給人員に内通者の恐れあり。下手に皆を降ろせない。その後に、人質にされる恐れあり。』
 しばしの間それを見せると、再びポケットにしまう。
「いずれにせよ。やり遂げることだ。君にも君の考えがあるのならな。」
 そう言って、ダグザは艦長室を出る。

「君には申し訳なく思っている。友人達にもね。だが、君の都合があるように、こちらにもこちらの都合がある。そして、より多くの人たちの運命に関わる。降ろしたいのは山々だが思ったより事情が複雑になっている。そういう事なんだ…。」
 そう言って、ティーポッドから新しい紅茶を淹れる。
「だからって…。ああも、一方的に無視されるような態度を取られたら、腹も立ちますよ…。」
 バナージがイラつくように呟くと、オットーは小さく呟く。
「エコーズというのは、中々に難儀な部隊なんだ。ここだけの話、時にはかなり汚れ役を演じることがある。任務の都合上、警察のSWAT部隊やエイフに似た面もあるが、任務内容は過酷でね。どこか人間性を封じないと、とてもやっていられん。まして、ダグザ中佐は部隊司令だ。ひらの隊員では想像もつかない、苦悩もあるかもしれん。今回の事にもな。この艦に君の友達を留め置いているのは、自分の権限の及ぶ限り守りたいからかもしれん。頭に来るだろうが、あまり、嫌わんでやってくれ。」

 オットーとの話を思い出しながら、バナージはユニコーンを駆りゼロポイントに向かっていた。
「一つ聞いてもいいか?」
 前を見ながら、ダグザが話しかけてくる。
「何ですか?」
 オットーの話をある程度理解できたとしても、やはりバナージのダグザに対する態度は硬さがあった。
「君が、この機体に乗り続ける理由だ。MSへの憧れではあるまい?君からは、そんな浮ついた感じはしない。」
「最初は、さっさと降りてやろうと思いましたよ。」
「当然だな。あの、タクヤとかいう少年とは違うようだからな。」
 MSマニアのタクヤなら、喜んで乗ったかもしれない。
 だが、ダグザはバナージからは、そんなどこか子供じみた感じは感じられなかった。
 それ故に、興味があるのかもしれない。
「でも。こうも考えたんです。カーディアス・ビストは。俺の父は、俺がそこにいたからユニコーンを授けたんじゃない。何か、希望を託したんじゃないかって。何かを、見つけて欲しいと考えたんじゃないかって。それが、何かは解らない。けど、あの人の想いから逃げるのは嫌だったんです。あの人が追い求めていた物、俺に託そうとした物。俺はそれを知りたい。あの人が父だから。俺があの人の子供だからとかは、関係ありません。俺自身が知りたいんです。あの人の望み、あの人の願い。その先に、ラプラスの箱があるのなら、俺はこの旅を最後まで歩みたい。ただ、それだけなんです。大した理由じゃありませんよ。」
「…そうか…。」
 そう呟いて、ダグザは話すのをやめた。
「俺からも聞いていいですか。」
「何だ?」
「どうして、そう、迷わないでいられるんですか?」
 いかに、訳ありの任務が多いエコーズの隊員と言えども、人間には変わりない。
 が、どこか、人間性が欠けているように見える。
 バナージは、ダグザのその部分に興味を持った。

「俺は連邦軍の部品。歯車だ。与えられた任務を果たすだけだ。そこに、いちいち感情を割り込ませはしない。割り込ませて、疑問を持てば、任務に支障をきたす。それによって、悪影響を受けて、死なずともいい人間が死ぬこともある。現場の人間がそれを考えない事は無責任と考える人間もいるだろう。だが、迷いが僚友を殺すこともある。俺自身、体験した事だ。上層部の命令に従い、任務を完遂する。それが、無駄な人死にを出さないための手段。そう考えて、任務でベストを尽くす。部品に、歯車にできる精々だ。どんな経緯があれ、歯車になる事を選んだのは、俺自身だ。だからこそ、迷わず、ベストを尽くす。それだけだ。」
 言葉を選びつつ答えるダグザの言葉を、バナージは時間をかけて考える。
「俺は、そこまで割り切れませんよ…。この旅を最後まで歩み続ける決心をしても、袖付きが本当に敵かなんて、俺には解りません…。はっきりしているのは、ネェル・アーガマが沈めば、オードリー達が死ぬ。だから、戦う。さっき話した以外に、乗る理由があるとすれば、それです…。」
 自分がMSに乗って戦う機会があるとは思っていなかったバナージには、戦う覚悟を固める時間はなかった。
 その点から言えば、当たり前の言葉だった。
「その点で言えば、君は正しい選択をしている。バナージ。戦場では躊躇うな。友達を死なせたくないなら、相手を倒す以外にない。少なくとも、今は、袖付きは敵だ。君がいたコロニーの様に、連中は躊躇いなく、ネェル・アーガマを沈める。たとえ、子供たちが避難したと知っていようと、避難させるゆとりすら与えずにな。」
「そんな…。」
「奴らはテロリストであり、戦争のプロだ。バナージ、躊躇うな。守りたいものがあるなら、戦うしかない。悲しいが、それが現実だ。一時、退けたとしても、再び相手は牙を剝く。確実に、相手を仕留めろ。」
「はい…。」
 無論、戦争は嫌だし、殺すのも殺されるのも、バナージは御免だった。
 そんなバナージに話して聞かせた現状は、納得するには十分だった。
「着きました。」
 目の前には、衛星軌道を漂う残骸。
 嘗ての首相官邸ラプラスが、あった。

後書き
この二次創作で、何故バナージがユニコーンに乗り、ラプラスの箱を運ぶ旅を続けるか?
それを、きちんと書いておきたいと思いました。
オリジナルでは、どちらかというと巻き込まれてしまった感じが強いですが、この作品では、父であるカーディアス・ビストに託されたのがラプラスの箱の鍵であり、地図だからというのもありますが、バナージ自身、箱が何なのか自分の目で確かめようとする自発的な意思もあります。
そして、戦場で相手を撃つ覚悟を決めました。
オードリー達を守るために相手を撃たないと、再び牙を研ぎ澄ませて撃ちに来るかもしれない。
そうでなくても、袖付きは戦争のプロである巨大テロ集団。
撃つのも撃たれるのもどっちもいやでも、オードリー達を守るには、撃つしかない。
残念ですが、それが現実だと思い、バナージに覚悟を決めさせました。



ラプラスの亡霊 機動戦士ガンダムUC(5) (角川文庫) - 福井 晴敏
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